月山水系の清澄な雪解け水、そして東北の宮水と呼ばれる軟水がこんこんと湧き出る、全国でも有数の“最も水に恵まれた土地”である寒河江。それに加え、豊穣の土地が毎年たくさんの米をもたらしてくれたこと、実直で真面目な寒河江の蔵人の技があったことで、寒河江では昔から酒づくりが盛んにおこなわれてきました。
かつては20もの蔵があったといわれている酒蔵で、現在、寒河江で酒づくりを行っているのは、3つの蔵。「古澤酒造」と「月山酒造」、そして「千代寿虎屋酒造」です。どの蔵も、創業を江戸時代にさかのぼる老舗。寒河江市内の飲食店でその味を飲み比べてみるのも、面白いでしょう。
寒河江で、紅花商いと米づくりを行っていた地主の古澤家が酒づくりを始めたのは、天保7年(1836)。以来、地元の米と水、そして伝統の技にこだわった酒づくりを行ってきました。古澤酒造株式会社・代表取締役社長の古澤廉太郎さんは「寒河江は、酒づくりに関して地の利に恵まれています。また、寒河江は人にも恵まれており、実直で真面目で、手抜きをすることを知らない。道具も、米も、酒をつくる環境も、じっくり向き合うんですよ。うちでも寒河江の米をしっかり自家製米して、実直な酒づくりを続けています」と教えてくれました。
「澤正宗」をはじめとする古澤酒造のお酒は「大吟醸以外は、ふくよかで、柔らかくて、香りがあまり強くないのが特徴。料理に合わせて召し上がっていただきたいですね」と、古澤さんは話してくれました。
「月山酒造」の蔵の歴史は古く、元禄年間(1700年)「豊龍蔵」が酒造りを始めました。昭和47年さらなる品質向上を目指し、現在の地に月山酒造を創業。以来、寒河江から「銀嶺月山」などの銘酒を全国に送り出しています。代表取締役社長の鈴木潤一さんは「昔から山形には杜氏制度がなくて、農閑期に近隣の方が酒蔵に入ってくれるというのが習わしでした。そして1987年には『山形県研醸会(けんじょうかい)』が発足し、山形県工芸技術センターが若手の育成に乗り出したことで、山形県全体の酒のレベルが飛躍的に向上したんです。今後は輸出を増やして、海外でも山形の日本酒ファンを広げたいですね」と、話します。
「千代寿虎屋酒造」の創業は元禄9年(1696)。初代は山形市内で酒づくりをはじめ、元禄末期には3つめの工場として寒河江に蔵を設立。この寒河江の蔵が分家独立して、現在の「千代寿虎屋酒造」となりました。寒河江に蔵を建てたのは、「東北の宮水」と寒河江で育てられていた酒米「豊国」を求めてのことだったといいます。代表取締役社長の大沼寿洋さんは「今も弊社では『豊国』を契約栽培しています。米粒が大きくて雑味が少なく、キレのあるお酒ができるんです。この『豊国』の名を冠したお酒はイチオシです」と、話してくれました。
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