人口10万人あたりのラーメン店軒数が日本一の、ラーメン王国・山形。山形では、昔から親戚や知人が家に訪ねてくると、“おもてなし”として、ラーメンを出前で注文したり、みんなで食べに行ったりする習慣があります。山形のラーメンの大きな特徴というのが、「そば屋でラーメンが食べられる」ということ。そんな「そば屋のラーメン」の中でも、寒河江で長い歴史を誇り、“庶民のごちそう”として多くの人の胃袋を満たし、笑顔にしてきたのが「皿谷食堂」の中華そばです。
創業は、1924年。当時は、団子やそばを店で提供していたそうですが、時を同じくして、関東大震災から難を逃れ山形へとやってきた華僑の人々が、県内でラーメンを提供するようになりました。店主の皿谷一巳さんは「聞いた話によると、米1年分とラーメンのレシピを交換したのだとか。うちでは牛骨でスープを取り、チャーシューではなく“チャー牛”を提供していますが、これは華僑の方に教えてもらった通りなんですよ」と、話します。
皿谷食堂の中華そばは、スープ、麺、メンマ、チャー牛すべてのバランスが絶妙であることはもちろん、何よりも出汁の効いたふくよかな味わいのスープは特筆すべきでしょう。「スープを支えるのは、鰹節などのそばつゆに使う材料。それがあるから、牛が活きるんです」と、皿谷さんは語ります。
さらに、皿谷食堂で外せないのが、創業時から続くメンマ。最近では、極太のメンマもデビューし、多くのファンをうならせています。「うちのメンマを愛してくださっているお客さまが多いことに気づいて、こだわってつくってみようかと思ったんです。乾燥の状態からじっくり戻して味を付けて、柔らかいけどサクッとかみ切れるような太いメンマをつくってみたんです。これが評判になりました」。
この極太メンマの開発をきっかけに、皿谷さんは社会課題にも取り組みたいと意欲を見せます。「今日本では、竹林被害が深刻です。竹を適切に伐採して、その竹からメンマをつくれれば地産地消でフードロスの解決にもなるかもしれません。将来的に携わっていきたい問題です」。
また、「コロナ禍で地元に帰ってこれない子どもたちに、皿谷のラーメンを食べさせてやりたい」と話していたという常連客の声を聞き、「来年、店の裏手に施設を作って、そこに急速冷凍機を導入し、皿谷食堂のラーメンを全国に発送できるようにします。お客さんたちの声に、向き合わないと」と、皿谷食堂のラーメンの冷凍販売を決意したそう。
寒河江の名物ラーメンが、この冷凍販売をきっかけに全国を制覇する日も遠くはないかもしれません。